市場整合的EVと伝統的EVの相違点

問題

市場整合的EVと伝統的EVとの主な相違点について簡潔に説明しなさい。ただし、EVとはエンペディッド・バリュー、市場整合的EVとはCFOフォーラムが2008年6月に発表したMCEV原則に基づく市場整合的EVを指すものとする。

・・伝統的EVでは、ハードル・レート(およびそれに付随する資本コスト)によりリスクの反映を行なっているため、負債対応資産について株式等のリスク資産の構成比を高めた場合、期待収益の増加は、資産運用リスクに対応した資本コストの増加や割引率の増加によってある程度の調整はされるが、市場リスクに係る完全なリスク調整は期待できないため、リスクの大きい投資行動を過大評価する傾向があると言われている。この伝統的EVの欠点を解消するため、市場整合的EV(以下、MCEV)では、リスクを明示的に反映することが求められている。
・MCEVでは、保険負債のキャッシュ・フローの現在価値は、理論的には対応する複製ポートフォリオの価値により評価される。保険契約に内在する『金融オプションと保証の時間価値(以下、TLFOG: Time Value of Financial Options and Guarantees)』も、それを複製するためのヘッジコストとして評価される。伝統的EVでは、TVFOGは明示的には評価されていない。TVFOGの氷菓対象としては、契約者配当や解約に係る権利、変額年金の各種最低保証などが挙げられる。
・伝統的EVでは、ハードル・レートで割引を行うことによりリスクの反映を行う。そのため、保有する必要資本に対して資本コストが発生し、資本コストの控除が行われることになる。一方、市場整合的評価を行うことでリスクの反映を明示的に行うMCEVでは、市場リスクに係る調整を反映するため、負債対応資産の構成内容にかかわらず投資収益率及び割引率ときてリスクフリー・レートが適用されることから、伝統的EVの意味での資本コストの控除は別途行う必要はない。
・ただし、MCEVにおいても、リスクに対する資本は必要であり、その必要資本に対するコストとして、『必要資本に対するフリクショナル・コスト』の反映を行う必要がある。『必要資本に対するフリクショナル・コスト』とは、例えば、実際の市場には投資収益に係る二重課税のコスト等の摩擦が存在するため、監督規制・格付・リスク管理等のために保険会社が維持する必要資本に対して発生する摩擦的な資本コストである。
・また、仮に複製ポートフォリオに投資したとしても市場リスク以外のヘッジ不能リスクがあるため、『残余ヘッジ不能リスクに対するコスト』が発生する。例えば、保険リスク等がヘッジ不能リスクに分類される。
・企業価値評価としては、財務的困難のコストやエージェンシー・コストも評価すべきリスクであるが、MCEV原則の結論の背景において、CFOフォーラムは、これらは、企業の経営が評価すべき一般的な企業リスクであるとして、MCEV算出の際には考慮せず、個々の投資家が必要に応じて考慮するものとしている。
・MCEVは、MCEV原則およびそのガイダンスに準拠する形での外部レビューおよび開示が行われていることから、透明性の向上と比較可能性の確保が図られている。
・MCEVは、修正純資産と保有契約価値の合計として表され、MCEVにおける保有契約価値は、確実性等価利益現価、金融オプションと保証の時間価値、必要資本に対するフリクショナル・コスト、そして残余ヘッジ不能リスクに対するコストから構成される。

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