解約率のシナリオ

問題

解約率のシナリオに影響を及ぼす項目を列挙し説明せよ。(オリジナル)

○経過年数
一般に解約率は契約の初期において大きく、期間が経過するにつれ減少する傾向にある。契約の時点では契約者は納得して加入したものの、契約の継続に関して考え直すのは経過の浅い契約からで、古い保険契約は大切に継続する傾向にあるようである。

○経済動向と市場金利
貯蓄性の高い商品の解約は他の金融商品との魅力との差により誘引される。また、一般的な経済動向によっても解約率は変動する。ただし、現状の日本では、解約率と市場金利の関係を把握するための有用な統計は十分に得られていない。

○販売チャネル・販売方法
販売チャネルにより解約率が異なると想定される。販売チャネルの主要なものは、営業職員による販売、代理店、ブローカー、ダイレクト・メールを含む通信販売、本社または支社が直接扱う特定マーケットを通じた販売等である。同じ営業職員による販売であっても、ライフサイクルを慎重にコンサルティングするよう教育された場合と、そうでない場合では解約率が異なるだろう。ブローカー制度は法制的には整備されたが、どの様な解約率の特性を示すか、判断に足る経験値は少ない。ただ、競合条件が厳しくなれば、保険料率の変更、報酬制度の変更、新商品の開発の頻度が高くなり、自然、競合他社と乗りあっている販売チャネルでは解約率の変動が大きくなると想定される。ダイレクト・メールを含む通信販売チャネルの解約率の動向は、残念ながら経験値が少なく、定性的判断は困難であるが、少なくとも自主的に納得して加入する形態をとるわけで、良好な継続が期待し得る要因はある。当該チャネルの場合、解約率よりも、死亡率・罹患率に対する逆選択、将来の事業費の設定の方が、商品の収益性・健全性に与える影響が大きいと思われる。
また、同じ販売チャネルであっても、売られている商品ごとに特性が異なることは充分に想定される。また、チャネルの主要な顧客層にも依存すると思われる。解約率の調査における販売チャネルの位置づけは、他の項目に先んじて区分されるという意味で、大分類項目ではないかと思われる。

○加入目的
例えば、老後の生存保障を目的とする契約であれば、継続率は良いであろう。短期の貯蓄をかねた保険加入であれば、満期を待たず解約する傾向が強いであろう。加入目的自体がはっきりせず、営業担当者への義理募集でかれば、継続率の特性も異なろう。
また、個人契約か法人契約かの違いも加入目的の違いといえる。法人契約には、経営者保険として会社の経営者および役員の保障を行う契約や従業員福利厚生の一つとして、保険料の一部または全部を会社が負担する契約がある。これらは、個別の個人の保険契約より契約継続の意思決定がはっきりしており、加入当初の目的が満たされたときとか、加入当初の計画通りに行かず、保険料の支払いが困難になったときには、一時に解約が集中する場合がある。個別の個人契約では、個別の人間が判断するので、解約の時期は分散される傾向があろう。

○保険料の規模・変動
保険料が高額であるか低額であるかによって解約率に影響があると考えられる。例えば、加入時点では高額の保険料がまかなえると判断したものの、家族構成が変わり、教育費等の支出が増え、自分の死亡保障性の契約を解約するという状況は充分に考えられる。しかし、一般的には平均保険料の高低は、販売チャネル、商品特性に依存することが多い。自社の一般的傾向からみて、特定の販売チャネルからの商品の平均保険料が高い場合などでは、予期せぬ販売方法がとられている可能性もあるので、販売の実態を調査する必要がある。
払込保険料の額が、保険期間の途中で上昇する契約の場合、保険料の上昇の時に解約率が不連続に上昇する可能性があると考えられる。
また定期性商品が更新する場合、年齢の上昇に伴って、一般的には、保険料額が上がる。定期性商品の商品毎収益検証を行うとき、更新後の契約まで含めて検証を行うことがあるが、この際には配慮すべきである。

○保険金額
保険金額の高い契約は、契約者の独自のニーズが反映されて高くなっているわけで、継続率は良好であると考えられる。ただし、高額の保険契約が購入可能な消費者は価格自体にも敏感であり、割安な同内容の商品に買い換える選好意識も高いと思われる。
家計の状態から判断して過大な保険に加入している契約者の場合、早期に解約する可能性は高い。

○保険料の払込方法(回数・経路)
保険料の払方(回数)によって解約率がどう異なるかは容易に判断できない。年払契約であれば、最初の12ヶ月は継続する可能性が高いと判断できるが、次年度以降の保険料の入金は、月払契約以上の解約率を示すかもしれない。一時払契約は、貯蓄性商品の払方の一つとして定着している。占有率の高いものは一時払養老保険であろう。この商品は、分割払契約と異なり、保険料の入金という事由によって解約率が影響を受けるというより、競合金融商品の魅力との差に依存する要因の方が強いと考えられる。一時払商品の過去の解約率を経過期間をパラメータとして調査するより、市場金利との連動を調査する方が統計的に有意な結果が得られるかもしれない。
月払の場合、保険料口座振替特約を付加することにより、契約者の銀行口座からの自動引き落としにより入金する経路が一般的である(年払、半年払の場合でもあり得る)。この経路からの入金は、他の経路、例えば、集金扱い、銀行口座・郵便口座への振り込みなどと比較して、継続率が良くなる要因が多い。

○年齢・性別
高年齢者は、死亡保障・老後保障・遺族の生活保障を慎重に考慮したうえで加入する傾向にあるため、継続率は良いと思われる。また若年齢者と比較して、生活が安定しており、保険料を支払う家計のゆとりも存在する。ライフサイクルが先まで見えており、無理な保険料額・保障額の設定を始めから行なっていないことが期待される。
これに比べて若年層では、10年から20年先までの自分のライフサイクルを考えた生命保険の必要性を自発的に考える傾向は少なく、加入時の商品説明に納得はしていても気が変わることは大いにあり得る。生活様式の変化も激しく、家計のゆとりも安定しない。
性別の違いにより、解約率にどの様な差があるのかは定性的に判断することは難しい。日本では、男性が家計の中心となる場合が多く、保障性の商品の契約者および被保険者は男性が多いと思われる。これに比べ女性は、自己の生活のみに視点をおけばよい例が多いので、貯蓄性商品に加入する傾向が高いと思われる。これらは性別による解約率の差というより、商品特性による解約率の差と判断した方が分析しやすいと思われる。

○商品特性
解約返戻金が払込保険料総額を上回る場合は解約が誘引される。解約返戻金が死亡保険金を上回る場合は、死亡事故発生時に解約が請求される可能性が高い。死亡最低保障がある変額保険で、特別勘定のインデックスが下降した場合、死亡保障を期待して継続率が上がるケースがある。

○特別条件・優良体保険
特別条件が付加された契約の解約率が標準体の契約とどれほど異なるかの判断は困難である。他の保険契約に簡単には乗り換えられない様な、死亡指数の高い特別条件であれば継続が見込まれる。逆に、特別条件の要因となった健康状態が容易に改善する程度のものであれば、より有利な条件を求めて買い換えられる可能性がある。

○新商品販売
既存の商品と商品内容が類似しているものの、給付条件が良かったり、保険料率が安かったりして、より消費者にとって有利と判断される新商品が販売されたときは、既存の商品の解約率が上昇する懸念がある。

○税制
生命保険商品には、保険制度の社会性に鑑み、様々な税制の特例がある。将来、税制が変更されることによって生命保険商品の魅力が減少することも考えられる。税制の変更は予測困難であるので、シナリオを設定することは困難である。しかし、販売商品中に税的取り扱いの有利さを強調して販売された商品が多いのであれば、解約率を全体的に保守的に設定する等して対処する。

○報酬制度
報酬制度は、直接には、契約の解約率に影響しないが、担当者のインセンティブを通じて影響を与える。例えば、契約当初の数年間、継続手当といった形で報酬が支払われれば、その規模にもよるが、少なくともその期間は継続を促すよう努力するだろう。報酬が途絶えたときに不連続に解約率が上昇するかもしれない。次年度以降の報酬制度が貧しいものであるなら、そもそも継続のための努力を行わないかもしれない。募集の時点で良くコンサルティング・セールがなされており、契約者も十分納得して加入していたとしても、加入後数年間の顧客との継続的接触は、その後の継続に影響を与えると想定される。

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