問題
相互会社が有配当保険と無配当保険を併売する場合における留意点を挙げ、公正・衡平な取扱いおよび収益性・健全性確保の観点を含めて簡潔に説明せよ。(平成18年度大問2(2))
【相互会社の無配当保険契約の取扱い】
相互会社が無配当保険を販売する場合、その契約を社員権を有する「無配当保険社員」契約とする考え方と社員権を有さない「非社員」契約とする考え方がある。
しかし、「無配当保険社員」契約とする考え方は、「剰余金分配権」を持たない無配当保険の契約者に有配当保険の契約者と同様の社員権(共益権)を認めることとなり、剰余金の分配にかかる議決をゆがめるという問題がある。このため、一般的に無配当保険契約は「非社員契約」として認められてきた。
法令上でも、保険業法第63条第1項において「相互会社は、剰余金の分配のない保険契約その他の内閣府令で定める種類の保険契約について、当該保険契約に係る保険契約者を「非社員契約」として定款で定まることができる。
無配当保険契約を「非社員契約」として定める場合、法令上では次の制限がある。
保険業法第63条第3項において「相互会社が行う第1項の保険契約に係る保険の引受は、内閣府令で定める限度を超えてはならない。」とあるように、相互会社の無配当保険の引受には「限度」が設けられている。具体的には、再保険契約に係る保険料を調整した後の、社員契約と非社員契約からの保険料収入の合計額に対する非社員契約からの保険料収入の割合が「20%」を超えてはならないと定められている(保険業法施行規則第33条)。なお、非社員契約に係る保険の引受の限度についても、定款に定めることが求められている。
また、保険業法第63条第4項において「相互会社は第1項の保険契約に係る保険の引受けをする場合には、内閣府令で定めるところにより、当該保険契約に係る経理を、社員である保険契約者の保険契約に係る経理と区分してしなければならない」とあるように、相互会社にあっては、非社員契約の無配当保険には区分経理を行うことが求められている。事業年度における収支の状況を記載した書類を作成し、事業年度終了後4カ月以内に金融庁長官に提出しなければならない。
【公正・衡平な取扱い】
(1)「非社員契約」と「社員契約」の取扱
無配当保険は事後精算しないことを前提に、より現実の期待値に近い率を用いることで安価な保険料を実現することができる。それに対して社員配当で事後精算を行う有配当保険の「実費負担」を、どのように公正。衡平な形で設定するかという点に留意する必要がある。
(2)「非社員契約」である無配当保険から得られた利益や損失を「社員契約」間で分配する際の取扱
非社員契約である無配当保険から得られる利益・損失は、最終的に社員である有配当契約者に帰属するものであり、社員である有配当契約間でどのように公正・衡平に分配するかという問題がある。しかし、後述の通り、非社員契約の無配当保険勘定でのセルフサポートが前提となっている以上、非社員契約の剰余はむやみに社員契約に流用するのではなく、非社員契約の勘定内に充分な内部留保を確保することが求められる。
【収益性・健全性確保】
保険相互会社の無配当保険から得られる利益・損失は、最終的に区分勘定を通じて有配当保険の契約者に帰属し、有配当保険契約の収益性・健全性にも影響を与える。そのため、経理の区分は、あくまでも剰余金の分配のある有配当契約と、剰余金の分配のない無配当契約とを相互会社の管理会計上区分して損益の管理及び剰余金の源泉を明確にするものにすぎないといえる。
一方で、無配当保険の収益性・健全性は、第一義的に無配当保険区分の中で確保されること(セルフサポート)が要求されるため、無配当保険から生じた利益を無暗に流用し有配当保険に振り替えるのではなく、無配当保険の勘定内で一定の内部留保を行うことがまず求められる。
ただし、無配当保険は安価な保険料を提供できる代わりに、保険料に配当というバッファが無く、収益性が安定しないことから、利益留保を意図的に厚くするなど、内部留保の水準には十分な検討が必要である。
また、無配当保険の販売当初は、無配当保険からの利益だけでは必要なソルベンシーを確保することができないばかりか、新契約負担や標準責任準備金に対する積み増し負担により損失が発生することが見込まれるため、自己資本の財政的圧迫について問題がないか、また自己資本のうち、どの程度無配当保険に割り振ることができるか確認が必要となる。
そして、無配当保険契約に対する通常の危険を超える危険に対するバッファ財源は、主に「基金のうち無配当保険に割り振られたと想定される部分」、「無配当保険区分内の内部留保(危険準備金など)」、「併売する有配当保険の剰余(出資)」などから構成される。