問題
各利源別剰余の算出方法とその結果を評価するにあたり留意すべき点を答えよ。(平成11年度大問2(2))
1. 費差損益
○算出方法
・予定事業費から事業費・税金その他の費用を差し引いた余りが費差損益である。
・「事業費」は、損益計算書に計上した「事業費」から「賞与引当金積増」を控除したものである。
・「税金(営業・契約関係)」は自社の営業用を目的とした不動産に係る不動産関係諸税及び保険契約に係る印紙税、保険事業に関係して係る税金である。
・「予定事業費」は利源分析用の予定事業費(利源枠・5年チルメル基準)である。
○留意点
・新契約の多寡が費差益に大きな影響を与える。新契約のボリュームが多ければ多いほど費差剰余を圧迫するが、反面、翌年度以降多くの剰余が期待できる。この場合、当期だけの剰余で良否を判断することは正しく本質を捉えることにはならないので、将来の期待収益を評価したり、あるいは新契約の多寡による剰余の歪みを生じさせないような付加保険料計上基準を別途評価して分析するなどの工夫が求められる。
・個人保険と団体保険との付加保険料の計上基準の差(個人保険はチルメル式、団体保険は純保険料式)も剰余に大きな影響を与える。計上基準を合わせた評価も利源分析の使用目的によっては必要になる。
2. 死差損益
○算出方法
・保険料から予定事業費と貯蓄保険料(年始年末保険料積立金・年始年末諸積増・予定利息等から導く)を差引いて危険保険料を算出し、さらにそれから保険金等を控除したものが死差損益である。
・責任準備金のうち「保険料積立金」と「未経過保険料」部分は死差損益に、「危険準備金」は責任準備金関係損益に反映される。
・「諸積増」は実際に積み立てている責任準備金(保険料積立金+未経過保険料)と5年チルメル式責任準備金との差である。
・「支払備金」により保険金等を現金ベースから発生ベースに修正している。またこれには「IBNR備金」も含められているため、「IBNR備金」の積立費用も死差損益に含まれる。
・「解約・失効契約の消滅時保険料積立金」は年始に有効であった契約が解約・失効となった場合の責任準備金の調整を行うためのものである。これを放置しておくと、当該契約の年始責任準備金(5年チルメル式)だけ死差益が過大となってしまうことから、費用項目に消滅時の積立金(5年チルメル式)を計上して、損益のバランスを図り、解約・失効による損益を死差益には含めないようにしたものである。
・解約返戻金は解除分だけを死差項目とし、通常の解約による分は責任準備金関係損益としている。
・転換を取り扱っている場合、転換時点の転換価格を新契約の責任準備金に充当する方法が考えられる。この際、被転換契約の責任準備金のうち転換後契約の責任準備金に充当する部分について、転換契約の計算において5年チルメル式を用いていない場合、その差額部分だけ死差益が歪むことになる。この場合、当該差額については死差益の収入項目に計上し、同時に責任準備金関係損益の費用項目に計上することによって、死差益が歪むのを防ぐことも考えられる。
○留意点・契約後の経過年数に応じ、死亡指数が一定の傾向をもっていることから、死差益の大半は初年度契約に依存すること、一方で初年度契約には配当負担がないなど剰余の定性的意味も十分吟味しておく必要がある。
・保険料の計算に用いた基礎率と判明した実績とを比較し、将来の支払に不安が見込まれる場合、保険料計算に用いた基礎率に代え、将来を予測した新基礎率を用いた責任準備金及び当期の危険保険料を評価し、剰余の見通しをつける等留意すべきである。
3.利差損益
○算出方法
・利息及び配当金等収入などの運用収益(キャピタル・ゲインを除く)から予定利息及び運用費用等を差し引いたものが利差損益である。
・「不動産動産等処分損(不動産・動産の売却損は除く)」は、損益計算書に計上した「不動産動産処分損」から不動産動産の売却損を除いたものである。
○留意点
・資産を運用して「利息及び配当金等収入」及びその他の投資関係収益を計上するのであるが、利源分析上これに対応する費差項目は、5年チルメル式責任準備金に対応する予定利息及び社員配当準備金(積立配当部分)に対応する積立配当金利息であり、その他の負債及び資本に対応する部分については収益のみで費用が発生しない。
・したがってこの部分については収益だけが計上されており、この収益をどの利源に入れるかは分析の目的による種々考えることができる。「その他の負債及び資本」には各種引当金・危険準備金・諸積増等がある。退職給与引当金の計上は費差損益の費用項目となる、費差損益を圧縮するが、これから生じる投資関係収益は、必ずしも利差益としか見ることができないわけではない。利源分析を行う目的に応じて適宜別の利源に識別するなどの工夫が必要である。
4.責任準備金関係損益
○算出方法
・年始諸積増・年始危険準備金・解約失効等の消滅時保険料積立金などから年末諸積増・年末危険準備金・解約返戻金などを差し引いたものが責任準備金関係損益である。
○留意点
・責任準備金積立が保険料計算基礎率による5年チルメル式基準と異なる度合いを分析する損益である。諸積増の年始・年末の差により5年チルメル式とどの程度異なるかを知ることができる。標準責任準備金を積み立てている場合等、保険料計算基礎率と責任準備金基礎率が異なる場合は、これによる積立差も責任準備金関係損益に含まれることになる。
・様式の下半分はいわゆる解約失効益である。この益も責任準備金関係損益とするだけでなく、目的に応じて、他の利源に含まるなどの工夫も必要である。
5.価格変動損益
○算出方法
・有価証券売却損・保険業法第112条評価益などから有価証券売却損・有価証券評価損・価格変動準備金繰入額などを差し引いたものが価格変動損益である。
○留意点
・キャピタルゲインに関連する項目に関する損益と考えられるが、最近の資産運用がセキュリタイゼーションの流れにより大きく変化しており、インカムとキャピタルゲインとの判別が必ずしも明確ではなくなってきている。このため、目的によっては利差益と価格変動損益、あるいは含み益まで考慮した分析が必要となる。
6.その他の損益
○算出方法
・その他の経常収益・その他の特別収益などからその他の経常費用・その他の特別損失・法人税及び住民税などを差し引いたものがその他の損益である。
・「税金(その他)」には法人事業税・特別法人税等が含まれる。
○留意点
・利源分析を配当率の検証に用いる場合などには、この法人税も各利源に配分して分析することも状況によっては必要になる。