問題
(1)事業費を新契約費と維持費に区分する必要性について説明し、新契約費として区分されるものにどのようなものがあるかを列挙せよ。(平成16年度大問3(2)①)
(2)配賦単位を用いる必要性について説明し、配賦単位の例を挙げなさい。(平成25年度大問2(3)②)
(3)会社の経験値が使用できない場合および将来の「規模の経済」を考慮する場合の留意点を述べなさい。なお、「規模の経済」を考慮する場合の留意点については、「生産性の向上」についても言及すること。(平成25年度大問2(3)③)
①(1)【区分の必要性】
生命保険商品の事業費にかかるキャッシュフローは、一般的に、契約当初の新契約獲得にかかる費用負担が大きく、一方、収入たる付加保険料は保険期問を通じて平準的である。よって、商品毎収益検証にあたっては、保険期問を通算し、契約当初の費用負担を将来の付加保険料収入で賄えるかどうか、維持にかかる収入・支出のバランスはどうかを確認する必要がある。このため、事業費は総額だけでなく、新契約にかかる経費と維持にかかる経費を区分する必要がある。
【新契約区分例】
・営業職員・代理店の報酬・手数料
・新契約査定部門の人件費・物件費
・医務部門の人件費・物件費
・広告宣伝費、募集文書の作成、発行、商品パンフレットの作成、ダイレクト・メールの作成にかかわる費用およびこれに伴う人件費・物件費
・商品開発にかかわる部門の人件費・物件費
・支社・営業所、本社営業管理部門のうち、契約の保全業務以外のすべての経費
・情報システム関連の経費のうち、新契約に関する業務と新南晶開発に関する業務の経費
・その他、支社・営業所・本社を含むすべての不動産の賃貸料、税金、修繕費、光熱費等の物件費のうち、新契約にかかわる部分
(2)【配賦単位の必要性】
適切に商品毎収益検証を行うためには、会社の事業費を分析し、商品 1 件ごとが負担すべき事業費を求める必要がある。 しかしながら、事業費は保険料の収入や保険金の支払とは異なり、必ずしも商品 1 件ごとに直課できる経費ばかりではない。商品 1 件ごとが負担すべき事業費を求めるためには、商品毎の事業費特性を考慮し、実際の事業費を適切な配賦単位に分類し配賦する必要がある。
【配賦単位の例】
・件数比例の費用
・保険金額比例の費用
・保険料比例の費用
・責任準備金比例の費用
・保険料収納1件(1回)あたりの費用
・手数料・営業職員の報酬比例の費用
【会社の経験値が利用できない場合】
商品毎収益検証に用いる事業費は、会社の経験値を分析し、設定することが考えられるが、新設間もない会社の販売する商品や新規の販売チャネルで販売される商品に対しては、経験値を使用することができない。
このような場合には、
・生命保険業界の経験値または同規模の他社の経験値
・会社全体の事業計画または新規チャネルの事業計画
・各々の経費の積み上げ
などの情報が利用できる。
【規模の経済】
主に商品 1 件あたりの維持費に対して、会社規模の拡大に伴い 1 件あたりの事業費は減少するという「規模の経済」の原理が働く。新設間もない会社で、将来、会社規模の拡大が見込まれる場合は、現時点の 1 件あたり事業費は相対的に大きくなっており、「規模の経済」を将来の事業費に考慮することが考えられる。 ただし、規模の経済は将来の保有件数、新契約件数に依存するため、大きく予測を間違えることもあり得るので注意が必要である。 なお、「規模の経済」に似た概念として、職員の処理能力の向上等によりもたらされる「生産性の向上」があるが、これは、新設会社や新規チャネルの場合であっても、新たな技術革新でもない限りは短期のうちに限界に達し、将来、大きく変動しないと思われる。「規模の経済」の考慮にあたっては、「生産性の向上」と混同しない分析が必要である。