問題
個人保険の解約返戻金を決めるにあたって考慮すべき視点を4つ挙げ、それぞれ簡潔に説明せよ。(平成21年度大問2(2))
【健全性】
解約者に対して解約返戻金を支払うことは、保険群団に留保される金額、すなわち将来の保険債務に備えるための責任準備金積立財源となるものが少なくなるということである。このため、保険群団としての健全性の確保の観点から、解約返戻金は、必要な責任準備金、及びソルベンシー・マージンの積立財源を脅かさない金額以下で設定する必要があり、具体的には少なくとも、解約返戻金は責任準備金額以下とすべきである。
いわゆる「解約控除」は、健全性の視点で設定しているとみることもでき、残存契約からの収益に期待せずに、新契約費の未回収部分を賄うためには、これが必要となる。
【公平性】
公平性に関しては、「誰と誰」の間の公平性を論点にしているかを明確にする必要がある。
①「保険契約を解約した者と継続する者」との間の公平性
解約者の新契約費の未回収部分の負担を保険を継続した者に負わせることは公平性に欠くと思われ、その意味でも「解約控除」は必要と考える。
また、保険種類間の公平性を考えてみると、「解約控除」が効くものと、元々責任準備金が少ないため、「解約控除」しきれない等により、何らかの形で残存者に負担を負わせている保険種類もあることに留意する必要がある。
②「保険給付内容を周知している契約者とそうでない契約者」との間の公平性
契約の内容を一旦変更した直後に解約した場合の解約返戻金が、この様な変更を行わずに解約した場合の解約返戻金と著しく異なる場合、公平性が損なわれる。
また、解約返戻金額が死亡保険金額を上回る場合も公平性が損なわれる。
③「給付内容・保険料が同じ2商品の解約返戻金額が異なる場合の公平性」
新契約費用を引き下げることができたために新商品の解約返戻金額を引き上げた場合や、異なる販売チャネルで同じ商品を販売している場合にこのような問題が生じる。実際にかかった経費や保険契約者の合理的期待を考慮し、説明可能な差であるかという視点が重要である。
【効率性】
効率性とは、保障内容のみならず、保険料や配当金、解約返戻金といった契約者価額を含む保険契約者の利便の向上という意味で使用する。解約控除に関していえば、その水準を低くしていくことが効率性につながる。保険料計算上の予定新契約費を低く設定したり、解約控除の水準を低くしたりすることで、保険会社が新契約費支出削減の経営努力を行い、効率性を高めるインセンティブになる。また、効率性は他社との競争力と見ることもでき、企業努力によりソルベンシーを損なわずに事業費支出を削減し、解約返戻金等の契約者価額を高く設定することは、他社との競争力を高めることにもなる。
【契約者の合理的な期待】
契約者の合理的な期待に明確な定義があるわけではなく、「保険会社は当然このぐらいの配慮はしてくれるだろう」という一般消費者の保険会社の経営に対する期待である。社会通念、言い換えれば「常識」に基づくことになり、法令等で規定されるものではない。
解約返戻金に関していえば、契約者の直接的な期待としては、「解約控除」は小さく、解約返戻金は高いほうが良いことは明確である。一方で、保険会社の健全性を確保することも契約者の合理的な期待であることは明らかである。解約返戻金・解約控除に関する保険計理上の論点を十分整理し、理解する必要がある。