問題
商品毎収益検証に用いたモデルを利用して、会社全体の収益検証などを行う場合に、モデル・ポイントを使用することがある。モデル・ポイントについて簡潔に説明した上で、モデル・ポイントの設定上の留意点を述べなさい。(平成24年度大問2(3))
○モデル・ポイントの説明
・ 保有契約群団全体について計算した結果を合算するのではなく、計算効率を上昇させることを目的として、ある一定の要件のもとで群団化し、群団を代表すると思われる契約を選定し、当該代表契約のみの計算結果を保有契約全体の計算結果の代替とする計算手法をモデル・ポイント法といい、この代表契約のことをモデル・ポイントという。
・ モデル・ポイントの活用にあたって、モデル・ポイントが保険契約全体の計算結果を適切にあらわしていることを確認するため、モデル・ポイントが算出する統計数値と保有契約全体での計算結果による統計数値を比較評価するヴァリデーションを行うことが必要である。
・ モデル・ポイントは「生命保険会社の保険計理人の実務基準」におけるアセット・シェアの算定に活用されているほか、MCEVなどにおける保証とオプションの時間価値算定の際には、確率論的手法による計算を行うなど多数のシナリオでの計算を必要とすることから、その計算負荷を軽減するために活用される。
・ モデル・ポイントを選定する単位(保険種類、基礎率、性別、年齢、保険料払込期間、保険 期間等)で区分し、その「選定単位」の収支状況を代表していると考えられる代表契約を選ぶ手法のほか、証券番号の下一桁が 1 のものだけを抽出するなどランダムにかつ機械的に選定する手法も考えられる。
○ モデル・ポイントの設定上の留意すべき点
① 利用目的に応じた設定
・ モデル・ポイントの選定にあたっては、利用目的を考慮すべきである。求められる計算精度は、モデル・ポイントの数に影響すると考えられ、利用目的は「選定単位」に影響する可能性がある。例えば、金利上昇による動的解約の保証とオプションの時間価値算定にあたっては、解約率に影響のある単位で選定することが考えられる。一方で、莫大かつ多種多様な契約を保有する会社全体の収支を試算する際には、効率的な計算を企図してランダムに抽出することも考えられよう。
② 効率化を目指した選定
・ モデル・ポイントの選定は、ヴァリデーションを行いながらトライ・アンド・エラーで行うこととなる。効率的な群団化とモデル・ポイントの選定を行なわないと、販売量の少なかった商品の場合、選定されたモデル・ポイントの数が、該当する群団の保有契約の件数より多くなってしまうことすらある。したがって販売実績やモデルを利用する目的に応じて、ケース・バイ・ケースで効率的に群団化することが重要である。
③ 恣意性の排除
・ モデル・ポイントの選定にあたっては、可能な限り恣意性を排除するために、客観的な選定基準が明示的に示されていることが重要である。
④ ヴァリデーションの必要性
・ モデル・ポイントで計算した結果が適切な水準となるようにヴァリデーションによる検証が必要不可欠である。ヴァリデーションを行う項目は、保有件数、保険金額、事業年度末保険料積立金などである。保険料収入、事業費、保険金等支払額、運用収益、年換算保険料および事業年度末保有契約に対する解約返戻金などを追加すればより高い精度のヴァリデーションを行うことができる。
・ある一時点における統計値に対してよい近似を与えるモデル・ポイントであっても、将来収支のよい近似を与えるとは限らないので、より精度の高いヴァリデーションを行うには、 過去の何年間かのバックテストを行い、統計数値を比較評価するなど工夫をすることが重要である。
・ 確率論的手法による計算を行うなど、多数のシナリオでの計算を行う際は、ベストエスティメイトのシナリオでのヴァリデーションのほか、ストレスシナリオでも統計数値が反映できるかも確かめておく必要がある。
・ ヴァリデーションの結果、乖離があった場合には、「選定単位」の再検討などを行う必要がある。場合によっては精度の低い契約群団のみをさらに細分化することも考えられる。
⑤ 実務スケジュールやコンピューターの処理速度など
・ 実務的にどの程度に時間でアウトプットしなくてはいけないか、コンピューターの処理に要する時間もモデル・ポイントの選定にあたり重要な視点である。モデル・ポイントの選定にも時間を要することから、実務スケジュールや処理速度などを総合的に勘案する必要がある。