金利上昇時の流動性の問題

問題

金利上昇時における解約返戻金の支払のために生じる可能性のある流動性の問題およびその対応策について説明しなさい。(平成24年度大問2(1))

一般的に、金利上昇時には固定金利の金融商品を解約し有利な直接金融商品に乗り換える金利裁定(ディスインターミディエーション)が起きるおそれがある。生命保険契約においても、解約返戻金額が対応資産の価格と連動していない商品や、解約控除が市場実勢に比較して小さい商品などで、高利回りの金融商品への乗り換えを目的とした急激な解約の増加が想定される。この際、保険会社は急激な解約増加に応じて、保有債券を満期まで保有できずに好ましくない価格で売却せざるを得なくなり、キャピタル・ロスが発生する可能性がある。これが流動性の問題であり、以下の対応策が考えられる。
【商品設計時の工夫】
・ 保険料計算に用いる予定利率を適切に設定する。水準の決定には、足元の金利だけでなく、市場の将来動向を反映すべきである。流動性の問題のために、予め過度に高い予定利率を設定して、結果的にジャンク債やリスキーな商品に投資せざるをえないという悪循環は避けなくてはならない。
・ 他の金融商品と相応する解約返戻金水準を設定する(MVA等)。運用資産はキャッシュアウトが類似した金融商品と同じポジションを作ることにすれば、中途解約については対応する金融商品と同水準のペナルティーであっても良いと考えられる。
・ 保険会社のリスクと契約者の効用のバランスを取り、金利上昇時の解約を抑制する。例えば低解約返戻金期間後における高い返戻率を訴求する低解約返戻金型商品であれば低解約返戻金期間中は金利がある程度上昇しても低い解約率が期待できる。また、金利上昇時に契約者が恩恵を受けられるように、利率変動型商品や利差配当付商品を設計する。(但し予定利率保証への対応が必要であることには留意する)
【ALM の推進】
・ 運用資産と負債のデュレーションを合わせ、資産のコンベクシティーを負債のものより大きくする等、金利エクスポージャーについて理想的にコントロールされた ALM 運用を推進する。
・ 市場金利や契約者行動の複雑な動向に対応するためにはキャッシュフロー・マネジメントが必要な場面がある。解約返戻金などの支払いに備えるためには、資産運用利回りを多少犠牲にしても、ある程度の流動性資産を確保することが必要である。流動性比率を指標として管理することも考えられる。
・ 会社のバランスシートマネージメントとして、負債側のディスインターミディエーションに対する耐性を考慮し、保障商品と貯蓄商品を併売する等、保有商品ポートフォリオのバランスに配慮する。
【収益・リスクモデルによる契約者行動の影響の定量的捕捉】
・ 金利シナリオに応じた動的解約率をモデリングし、収益・リスクを確率論的に評価した結果を経営者にタイムリーに報告することによって、リスク回避のための適切な経営判断を行うことが可能になる。金利変動による解約率・資産価格への影響を逐次定量化した信頼性の高い商品別収益・リスクモデルを構築し、価格設定や販売後のリスク管理に活用する。
・ この際、一般的に負債キャッシュフローの見積もりを行う上で、貯蓄性商品における解約率は基礎率の中で最もキャッシュフローに影響を与えることに留意する。
・ なお、とりわけ伝統的商品に対する動的解約率を織り込んだキャッシュフローのモデル化には契約者行動の合理性等の課題があり、モデルリスクがあることに留意する。また、確率論的モデルを用いる際には、分布の選択やテール部分のモデルの動向等に留意が必要である。
【ストレステストの実施】
・ 保険会社は、将来の不利益が財務の健全性に与える影響をチェックし、必要に応じて、追加的に経営上又は財務上の対応をとっていく必要がある。そのためのツールとして、感応度テスト等を含むストレステストは重要である。
・ シナリオ設定においては、ヒストリカルシナリオのみならず、仮想のストレスシナリオによる分析も行う必要がある。また、保有資産間の価格の相関関係が崩れるような事態や、保有する資産の市場流動性が低下するマクロ経済状況を勘案したストレステストも行う必要がある。リバースストレステストを用いた重大な事象に至るシナリオの特定・分析の実施も有用である。
・ オプション・保証性の高い商品については、その特性を考慮した十分で適切なストレスシナリオを設定する必要がある。

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