問題
商品毎収益検証において、死亡率のシナリオを設定する際に定性的に配慮すべき事項を列挙し、それぞれ簡潔に説明しなさい。(平成28年度大問2(1))
○会社の過去の経験値
会社の過去の経験値は、以下に述べる要因を全て網羅した結果を含んでいる。この分析が第一になされなければならない。分析結果が統計的に安定でないと判断されるならば、他の方法をとるべきである。
○生命保険業界の経験値
新設会社等で、充分な保有契約・経過年数がなく、自社の経験値を利用しても信頼できる統計値が得られない場合、生命保険業界の経験値を利用することもできる。この場合、販売商品の特性、販売制度・販売チャネルおよび自社の査定基準など、会社独自の事情を勘案すべきである。
○国民生命表
生命保険の被保険者は死亡率の蓋然性に関して選択された者の集合であり、一般に国民全体が示す死亡率より良好な死亡率を示すといわれている。しかし、日本では、ほとんどすべての国民が何らかの形で民間生命保険の被保険者でもあるので、生命保険を契約してから「ある程度」の期間が経過した被保険者の死亡率は、国民生命表の死亡率に接近していると考えることもできる。
○選択効果
生命保険を契約する際、保険会社は自社の引受基準にしたがって被保険者の体況などに関する選択を行う。これには、自社の許容できるリスクの範囲内でリスクを保有しようという意味と、自社の被保険者集団が相互に請け負うリスクを公平に扱おうとする意味がある。よって、被保険者集団は経過の浅いうちは良好な死亡率を示す傾向がある。この傾向を選択効果という。自社の過去の経験値から、この選択効果を統計的に定量化することになる。
○再保険会社からの情報
再保険会社には、再保険契約を取り扱うことによって、多くの保険会社の死亡率に関するデータが集積している場合がある。これらを元受会社に対するサービスの一つとして提供する場合がある。
○自社の査定基準
現行の法制化では、保険契約の乗り合い募集が認められており、ブローカー制度も制度上整理された。競争条件が厳しくなっており、会社の査定基準の在り方によっては、自社に死亡率の高い被保険者集団が片寄る可能性がある。この場合、生命保険業界の平均的な経験率より高い死亡率の被保険者が自社に集中している可能性もある。競合他社の査定基準と自社の査定基準とを比較検討し、将来収支分析に使用する死亡率のシナリオを、適正に設定する必要がある。また、査定内容による差異(例えば、診査の有無による死亡率の差異)も配慮すべきである。
○販売制度・販売チャネル
一般に販売制度が異なれば、被保険者集団の属性も異なると考えられる。例えば、健康管理のゆきとどいた職域の被保険者集団は、比較的死亡率の低い集団であると推定できる。逆にダイレクト・メールにより募集された集団は、一般的には、モラル・リスクがより多く混入していると思われるので、比較的死亡率の高い被保険者集団が形成されると推定される。自社の販売チャネルごとに死亡率のシナリオを設定することも考えられる。
○商品特性
一般に、定期性商品にはモラル・リスクが混入する可能性が高いと考えられる。逆に年金保険契約の加入者には、自分の健康に不安のないものが多いと推定される。また医療給付に重点を置いた生命保険商品の加入者には、年金保険契約の加入者と同じ傾向があると考えられる。
○オプション
定期性商品で将来の更新を約定する場合、更新する契約の被保険者の死亡指数は、更新しない契約の被保険者のものより高いと一般的に考えられる。定期性商品の更新後の契約まで含めた商品毎収益性検証を行う場合は、この差を配慮することもあろう。自社の過去の経験値を調査して有意な差があると判断されれば、この調査を利用して更新する契約の選択効果を設定できよう。設定された選択効果は、少なくとも、新契約に使用する選択効果とは異なるものになろう。
○社会全体の動向
一般的に、経済が不況のときは、モラル・リスクが混入する可能性が高くなると予想される。また、現在の日本ではほとんど配慮する必要はないと考えられるが、エイズ等の特別な疾病の影響を調査する必要がある。
○新商品
例えば、優良体保険または非喫煙者保険が開発・販売された場合、同様の給付を行っている商品の自社の契約者が、買い替えをすることが予想され、既存商品の被保険者の死亡指数が相対的に上昇する可能性がある。また、自社の新商品だけでなく、競合他社の商品であっても、これに買い換えられることにより、自社の保有契約の死亡指数が上昇する可能性もある。定量的分析を行うためには経験値が不足しているかもしれないが、シナリオの一つとして考慮すべきかもしれない。